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ニューヨークのとけない魔法

いちどニューヨークに魅せられたら、もう抜け出せない。世界一おしゃべりで、お節介で、かなり図々しくて、でも憎めないニューヨーカーたち。東京と同じ“孤独な大都会”のはずなのに、ニューヨークでは見知らぬ人とおしゃべりし、心が触れ合う瞬間がたくさんある。みんながどこか切なくて、人恋しくて、でも暖かいユーモアを忘れない。仕事や人間関係で息苦しい毎日に心が固くなっているあなたも、ニューヨークの魔法にかかってみませんか。

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・セントラルパークにあるカジュアルな野外のカフェで出会った5歳くらいの女の子と二人の母親。・地下鉄で17ドルのプリペイドカードを買いたいのに、50ドル札を拒否され途方に暮れていたときに声をかけて気軽に両替をしてくれた黒人女性。・クリスマスイブの地下鉄。一緒に歌いましょう、“You're not alone.”(あなたは独りぼっちなんかじゃありませんよ)と声をかけて「マイ・ウエイ」を歌い続けていた男の人。長く、ニューヨークで暮らしたエッセイストの岡田光世さんが街で出会った人々、人種の坩堝といわれるニューヨークの様々な出会いを綴ったエッセイ集『ニューヨークのとけない魔法』が面白い。岡田さんは「日本では体裁を整えることばかりに気を取られて、子どもが持っていたはずの純粋さやひたむきさや素朴さをすっかり忘れてしまった。だけどニューヨークは“子どもの魅力”を色濃く残したままだ。この本に登場するニューヨークの人たちは皆“子ども”の部分が強く残っている」と本書あとがきで言っています。ニューヨークの男や女、時に子供たちに“私たちが喪いつつあるもの”を見いだしていく岡田さんのエッセイにはもう一つ、大きな魅力があります。英語です。語られるエピソード、人と人との交流を象徴的に伝える英語のフレーズが文章のアクセントになっていて、その内容をより印象深いものにしています。例として二つだけ紹介しましょう。この文章の冒頭で触れたセントラルパークで出会った「二人の母親」はこんな具合です。〈セントラルパークにあるカジュアルな野外のカフェで、日本人の友人とおしゃべりをしていると、白人女性に声をかけられた。Can we share the table ? テーブルを分かち合ってもいいですか、同席してもいいですか、ということだ。ほかに空いているテーブルがなかったのだ。 ローラーブレードを履いた五歳くらいの女の子が、そばに立っている。どちらもブロンドの髪でとてもよく似ている。ひと目で、親子なのだろうと思った。どうぞ、と答え、私は友人とおしゃべりを続けた〉「あの人たち、何語、しゃべっているの?」と女の子が母親らしき女性に聞いたのがきっかけとなって、テーブルを挟んだ会話が始まります。
〈しばらくすると、別の女性がホットドッグやコーラをのせたトレーを持って現れ、女の子の隣にすわった。その人に向かって、少女は「マミィ」と言った。あら、あなたがお母さんなんですか。私が尋ねると、母親だと思っていたブロンドの髪の女性が、こう言った。She has two mothers. この子には母親がふたりいるのよ。つまり、この女の子はレズビアンの女性ふたりに育てられているのだ。ブロンドの髪の女性にも似るようにと、彼女と同じ髪と目の色のドナーの精子を精子バンクで買い求め、もうひとりの女性が妊娠し、出産したという。ブロンドの髪の女性はフランス人で、もうひとりはアメリカ人だった〉Can we share the table ? という一言から、見知らぬ人間同士がひとつのテーブルに同席して、言葉を交わす。She has two mothers.――テーブルだけでなく、会話も、そして人生も分かち合うことになる。そこがニューヨークの素敵なところだと、著者の岡田光世さんは綴っています。次は、じつに素敵な誉め言葉のエピソード。題は「双子の母のため息」です。いつもより遅く帰ってきた夫にその日起きた、うれしい話だ。〈待てども、待てども、バスは来ない。本を読むには、もう暗すぎる。ほかにすることもない。バス停のベンチには、黒人の女の人と自分しかいなかった。I don't believe this. まったく、信じられないよ。その女の人はあきれたように首を横に振り、ため息をついている。仕事の帰りなのだろうか。疲れ切った様子だ。どちらからともなく、会話が始まった。その人は身の上話を始めた。夫が家を出ていき、離婚。双子をひとりで育てているという。毎日、本当に大変なんだよ、私が働いている間、妹が子どもたちの面倒を見ていてくれるんだけどね。自分も一卵性の双子である夫は、でも双子もなかなかいいものですよ、と高校の頃のエピソードを話した。男子校に通っていた双子の兄が、一度、男女共学を体験してみたいというので、制服を取り替え、そ知らぬ顔をしてそれぞれ相手の学校に登校した、というこれまで何度もしてきた話だ。それを聞くと、女の人はパンと手を打ち、大笑いした〉そんな取り留めのない話をしながら時間をつぶしていると、予定より三十分以上遅れてバスがやってきた。混んでいたので、二人は離れた席に座り、終点で夫が降りると、その女性が待っていて、夫の腕を軽くつかんで、こう言いました――。〈 I really enjoyed talking with you. You made my day. 〉話ができて、とても楽しかったよ。おかげで、今日一日がとてもいい日になったよ、という意味です。You made my day――直訳すれば「あなたは私の日をつくってくれた」――ニューヨークの匂いがするフレーズです。著者はこのエピソードを次のように締めくくります。〈玄関のドアを開けた夫の顔にも書いてあった。She made my day. 〉私がニューヨークに初めて行ったのは1977年の11月でした。それ以降、たびたび訪れていますが、とくに1990年代半ばから2007年ころまでは毎年11月に1週間から10日ほど滞在しました。パークアベニューにあるホテルに泊まり、リンカーンセンター近くにあるTV局の関連会社に地下鉄で通い、ニュース映像のビデオデータを買い付けるのが目的でした。そんなわけで生活をした経験があるわけではありませんが、毎朝毎夕、地下鉄でホテル近くのグランドセントラル駅と72丁目駅を往復し、テレビ局内の社員食堂でランチを取る。そんな1週間を10年ほど続けていたニューヨークです。本書と時代的にも重なっており、そこで綴られている数々のエピソードがあの街の匂いを運んできて、ふいに再訪したいという気持がわいてきました。人と人の出会い。そして宝石のように、きらめくフレーズ・・・・・・。岡田光世さんが言う、「ニューヨークの魔法」にかかっている自分を発見しました。本書のほか、シリーズの2作品、『ニューヨークの魔法のことば』『ニューヨークの魔法は続く』(いずれも文藝春秋刊)もリリースされています。あわせてお読みください。(2013/10/4)
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