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気概の人 石橋湛山

戦前はひとり敢然と軍部を批判するなど壮絶な言論戦を展開。戦後は初のジャーナリスト出身総理となるも自らの信念に基づき僅か2ヶ月で退陣。その気骨あふれる生涯を描いた伝記文学の最高傑作。――通勤電車の読書などで経済を独習し「日本のケインズ」といわれるまでになった自己改造の努力。日本が軍国化への道を進むなか、「小日本主義」を唱え、満州・朝鮮の放棄を主張した勇気。金解禁論争で世論に流されず、時の政権に堂々たる言論戦を挑み、時代を予見した識見。迫害を受けながらも、軍部を批判し言論活動を継続した使命感。そして戦後、総理大臣の地位に就きながらも、自らの信念にもとづき退陣した出処進退の見事さ。――日本ジャーナリズム史に燦然と輝く、巨人の思想と生涯をつづった渾身の伝記長編1100枚!※本書は2004年9月に東洋経済新報社より刊行された『気概の人石橋湛山』を電子書籍化したものです。

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 12月14日に投票日を迎える総選挙。終盤にさしかかったところで、政権No2、副総理の地位にある麻生太郎財務相が“本音発言”を連発しています。長野県松本市内の街頭演説で「この2年で株価は1万7千円まで上がった。円安にも振れた。その結果として企業は大量の利益を出している。出していないのは、よほど運が悪いか、経営者に能力がないかだ」と言ってのけ、有権者の失笑をかったかと思えば、今度は札幌で「(社会保障費が増大しているのは)高齢者が悪いようなイメージをつくっている人がいっぱいいるが、子供を産まない方が問題だ」という堂々の主張。若い夫婦が子供を産み、育てていくための社会的環境がないことについての問題意識を欠いた発言で、もはや政治家としての品格を問わざるをえません。日本の副総理の発言は、多くの外国メディアも一斉に取り上げています。たとえば、マレーシアのマレーメールは「ナチ好きの日本の副首相、今度は“産まない人々”に非難の矛先を向けた」と冷ややかな視線で報じました。これはほんの一例です。問題は、これが単なる失言ではなく、むしろ自民党執行部、現政権幹部間に共有される意識に根ざした発言、主張だと理解すべきだというところにあります。新聞各紙の調査によれば、この程度の政党が、300議席を上まわる勢いだそうです。投票率の低下も予想されています。20代投票率はここのところ、30%台だそうですが、どこを探しても一票を投じたくなる政治家が見えてこないという状況では、それも致し方ないというべきなのかもしれません。2014年12月14日の衆議院議員総選挙を前にそんなことを考えていて、思い起こした人物が二人います。一人は、戦前期の外交官で、2.26事件後、天皇の組閣大命をうけて総理大臣となり、敗戦後、文民としてただ一人、A級戦犯とされ絞首刑となった広田弘毅。もう一人は、やはり戦前、戦中を通じて東洋経済新報を舞台に軍事色、統制色を強める政策に対し一貫して反対の論陣をはり、戦後は総理大臣となりながら、病気で潔く退陣した石橋湛山です。広田弘毅については、作家・城山三郎が『落日燃ゆ』(新潮社刊)を遺していますが、この名作については稿を改めたいと思います。今回は伝記文学の第一人者・小島直記がリベラリスト石橋湛山の足跡を辿った『気概の人 石橋湛山』(東洋経済新報社刊)を紹介していきます。石橋湛山が総理大臣となったのは昭和31年(1956年)12月23日、そして昭和32年(1957年)2月23日、湛山はあっけなく政権を投げ出します。この間、何があったのか――。小島直記は本書にこう綴っています。少し長くなりますが、引用します。〈「政治家の進退の模範といえば、十目の視るところ、石橋湛山と相場が決っている。約二十年前の昭和三十二年二月二十三日、成立後六十三日で、彼は内閣を投げ出した。二十二日夜、医師から二カ月間の静養を勧められたというだけで、必ずしも乗り切れぬ事態ではなかったのに、また、辞職に反対する人々が周囲にいたのに、彼は『石橋親書』を残して、直ちに台閣を去った」というものである。湛山の首相辞職のことが強く国民に印象づけられたのは、その首相になるまでの経緯がとくに国民の注目を浴びていたからである。日ソ復交と日本の国連加盟をなしとげて、首相鳩山一郎が引退を表明したとき、後継者の問題──自由民主党の総裁となり、首相の座にだれがつくか、その問題が国民の前に大きく浮び上がった。鳩山のつぎに位するナンバー2は緒方竹虎であったが、その緒方は、三十年十一月、鳩山のひきいる民主党と、吉田茂のあとをうけた緒方のひきいる自由党とが合同し、自由民主党が成立したあと間もなく急死していた。
 党規約によると、総裁は公選によって選ばれることになっている。初代総裁鳩山も、形の上では、党大会における選挙で選ばれることになっていたが、対立候補がいなかったから投票は省略されたのである。ところが、鳩山引退後の総裁候補は三人いた。石橋湛山、石井光次郎、岸信介の三人である。石橋は通産相、石井は総務会長、岸は幹事長であった。・・・国民の眼には、その戦いのはげしさ、特に実弾(現ナマ)が乱れとんだというスキャンダラスな一面が強くうつっていたのだ。そして投票の結果は、岸 二二三票、石橋 一五一票、石井 一三七票で過半数を占めるものがなく、改めて決戦投票となり、わずか七票の差で湛山が勝ち、そのあと、さらに組閣人事で難航したあと、ようやく成立したのが石橋内閣だったのだ。 ところがその一カ月後、湛山は肺炎で倒れた。医師は二カ月の静養をすすめた。わずか二カ月間だけ休んでおれば、ふたたび国政を執ることができる。普通の政治家であれば、そういうことで事態を糊塗し、危機をのり切って、苦労して入手した政権を手放そうとはしなかったであろう。だが湛山はそうではなかった。このとき、国会では予算が審議されていた。首相としてそこに出席できないということは、責任感の強い彼としてできることではなかった。苦労して手に入れたものであるのに、彼は淡々として辞表を出し、政権の座を離れたのである。そのいさぎよさが、政治家一般の汚なさ、醜さに食傷していた国民の心に、すがすがしい印象をあたえ、喝采を浴びたのだ。〉辞任した湛山の後継指名により政権は岸信介に引き継がれます。現在の安倍首相の祖父である岸信介は、戦前期は商工官僚として満州国建設・運営で力を発揮し、対米戦争を始めた東条内閣では商工大臣になっています。それが理由となって、終戦後A級戦犯としてスガモプリズンに収監されましたが、不起訴となって釈放された経歴の持ち主です。
石橋湛山は満州・中国大陸政策に関し、今の言い方でいえばきわめてハト派的な考え方を持論としていました。その一端を紹介しましょう。〈「例えば満州を棄てる、山東を棄てる、その他支那が我国から受けつつありと考うる一切の圧迫を棄てる、その結果はどうなるか、また例えば朝鮮に、台湾に自由を許す、その結果はどうなるか。英国にせよ、米国にせよ、非常の苦境に陥るだろう。何となれば彼等は日本にのみ斯くの如き自由主義を採られては、世界に於ける其道徳的位地を保つを得ぬに至るからである」湛山はこれにつづいて、七月三十日号、八月六日号、十三日号の社説に「大日本主義の幻想」を書いた。
 湛山は、「朝鮮台湾樺太も棄てる覚悟をしろ、支那や、シベリアに対する干渉は、勿論やめろ、これ実に対太平洋会議策の根本」という自分の主張に対して、予想される反論に二つのポイントがあるだろうとした。一つは、「我国は此等の場所を、しっかりと抑えて置かねば、経済的に、また国防的に自立することができない。少なくも、そを脅かさるる虞れがある」二つは、「列強はいずれも海外に広大な植民地を有しておる。然らざれば米国の如く其国自らが広大である。而して彼等はその広大にして天産豊なる土地に障壁を設けて、他国民の入るを許さない。この事実の前に立って、日本にひとり、海外の領土または勢力範囲を棄てよというは不公平である」というものだ。これに対して湛山は、「第一点は幻想である。第二点は小欲に囚えられ、大欲を遂ぐるの途を知らざるもの」と断ずる。 第一点は、どうして幻想か。いいかえれば、「朝鮮台湾樺太ないし満州を抑えておくこと、また支那シベリアに干渉すること」は我国にとって利益、という考え方はどこがまちがっているか。〉としたうえで、湛山は経済的利益が喧伝されているほどにはあがってきていないことを例証していきます。その詳細は本書をお読みいただくとして、湛山はこう締めくくっています。〈中国およびシベリアは、干渉政策が経済上から見て大きな不利益をわれにあたえている。中国国民、ロシア国民の我国に対する反感が、経済的発展の大障碍である。この反感は、干渉政策をやめない限りなくならない。〉〈「思うに今後は、いかなる国といえども、新たに異民族または異国民を併合し支配するが如きことは、とうてい出来ない相談なるは勿論、過去において併合したものも、漸次これを解放し、独立又は自治を与うる外ないことになるであろう」朝鮮の独立運動、台湾の議会開設運動、中国およびシベリアの排日は、その前途の何なるかを語っておる。「吾輩は断言する。此等の運動は、決して警察や、軍隊の干渉圧迫で抑えつけられるものではない」大日本主義は、いかに利益があっても、永くは維持できない。〉満州国経営に辣腕を振るった岸信介とは相当距離のある考え方です。対極にあると言ってもいいかもしれません。その岸信介を後継とした湛山の胸の内はどうだったのでしょうか。気になるところですが、それはともかく、ここで驚くべきことは、湛山の思考、視点が、そのまま現在の状況に通じる力を秘めている点です。安倍政権は7月に集団的自衛権の行使について閣議決定しましたが、そのための法整備は2015年に先送り、総選挙の争点化を避ける姿勢が目立ちます。不透明な時代です。だからこそ、湛山の国際感覚、経済と軍事の考え方は傾聴に値します。(2014/12/12)
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