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季節風 冬

出産のために離れて暮らす母親のことを想う5歳の女の子の素敵なクリスマスを描いた「サンタ・エクスプレス」ほか、<ひとの“想い”を信じていなければ小説は書けない気がする>という著者が、普通の人々の小さくて大きな世界を季節ごとに描き出す短篇集「季節風」シリーズの冬篇。寒い季節を暖かくしてくれる、冬の物語12篇を収録。

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家族小説、なかでも「いい話」を書かせたら、重松清に並ぶ書き手はいないのではないか。「家族」というものの存在が希薄化し、人々が生きていくうえでの意味が見えにくくなっている時代にあって、否そういう時代だからこそ、重松清は「家族」を真正面から見つめ、悩み、時に苦しめあう「家族」を見つめて、家族の物語を紡ぎます。その眼差しはどこまでもやさしく、家族を信じる揺るぎない気持が読む者に静かな共感と感動をもたらします。今回紹介する『季節風 春』も、重松清の家族小説の秀作のひとつです。冬・春・夏・秋の季節をひとくくりとして、四季の移ろいを背景に「家族」――夫が、妻が、父が、母が、息子が、娘が直面した問題を素材に描かれた短篇集で、「春」には12篇が収録されています。巻頭の「めぐりびな」を始めどの作品も印象深いのですが、巻末に収録されている「ツバメ記念日」は、読み終えたとき、余韻にひたりながら「家族」を、そして「人生」をしみじみと思い返していました。〈由紀(ゆき)、誕生日おめでとう。こうしてあらたまって手紙を書くのは初めてだ〉という書き出しで始まる「ツバメ記念日」は、父親が近く結婚するひとり娘に宛てて書いた手紙の形で描かれています。妻は最初の総合職採用の女性社員。〈由紀がいるせいで。由紀のことさえなければ。どうして由紀を産んだのだろう。まだ言葉も覚えていないおまえの寝顔を見つめて、パパもママもため息交(ま)じりにつぶやいていた頃があった。季節はちょうどいまと同じ、五月の終わり。出産後一年間の育児休暇を十ヵ月で切り上げたママが仕事に復帰して間もない頃のことだ。ツバメ記念日の話をしよう。パパとママと、それから由紀にとって、なによりも大切な記念日の話をする〉妻は毎朝6時に起きて、7時前に家を出て、通勤ルートの途中にある保育園に子どもを預けて出社する。帰りは会社を定時の5時に出る。これが5時半になると、子どもを迎えに行くのが閉園時刻の6時ぎりぎりになってしまう。娘を抱いて混み合った電車に30分以上も揺られて、ようやく郊外のわが家に帰る。そこからすぐに晩ごはんをつくって、娘をお風呂に入れ、寝かしつけて、もう一度自分のためにお風呂に入り直しているうちに、気がつけば日付が変わっている。そんな生活が続いた5月末。娘が保育園で急な発熱。父親は日帰りで札幌出張だ。連絡を受けた妻は打ち合わせを中座して保育園に迎えに行き、小児科へ。風邪との診断で帰宅。娘の熱は夜8時をまわってようやく下がった。飛行機が遅れて、夫が帰宅したのは9時半。〈パパは玄関に立ちはだかって止めたのだ。ママに「行くな」と言ったのだ。大事な仕事を会社に残しているのはわかっているのに、「今夜は由紀と一緒にいてやってくれ」と言ったのだ。ママは「あなたがいるからいいじゃない」と言った。「お願い、そこ、どいて」だが、パパは譲(ゆず)らなかった。(中略)ママはため息をついて、ちらりと足下に目をやり、それからパパをあらためて見つめた。「だったら、悪いけど、離婚してくれない?」返す言葉を失ったパパに、つづけて言った。「由紀は、あなたに――」〉その瞬間、娘の眠る部屋から起き上がりこぼしの鈴が鳴る音がして、娘を見にいった二人は由紀が再び発熱していることを知る。40度近い。幼児用のスポーツドリンクを吸い飲みで一口飲ませたら、胃液と一緒に嘔吐(おうと)してしまった。もう仕事に戻るどころではない。二人は大あわてで、救急病院に連れて行った。熱性けいれんだった。タクシーで帰宅したときにはとっくに日付が変わっていた。母親は朝早くに重要な会議を控えていて、娘を見ながらその準備をするといい、会社を休むことにした夫は先に休んで、4時に交代することにした。朝の光で目をさました夫はあわてて時計を見て、もっとあわてて跳ね起きた。妻は寝室の机に突っ伏して眠っていた。壁の時計は8時半を回っていた。〈ママは思いのほか冷静だった。怒りもせず嘆きもせず、パパにやつあたりすることもなく、由紀が一晩中ぐっすり眠っていたのを確かめるとほっとして、落ち着いた口調で会社に電話をかけて、九時からの会議に出られないことを告げて、詫びて、必要なことを伝えて、もう一度詫びて、話を終えた。子どもが熱を出したから、という以外の理由はなにも言わず、言い訳もいっさいしなかった〉会社に向かった妻は、ホームのベンチで、一人泣いた。感情のままに「離婚」まで口にした。娘は夫に――と言いかけた、その先はどんな言葉だったのか。壊れる寸前にあった「家族」。そのとき、閑散としたホームで何が起きたのか。一人で泣いている妻に老夫婦が声をかけた。その視線の先にはツバメの巣――。心温まる重松清の世界。癒やしのエンディングです。(2013/2/22)
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