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日本人の自伝36 今村均 『今村均回顧録 抄』

今村均は、陸軍大将までのぼりつめた軍人。宮城県生まれ。戦後の軍事裁判の判決を受けて巣鴨拘置所で服役することになっていたが、自ら志願して元部下たちが服役する灼熱のマヌス島行きを志願した。《今村均回顧録》は、著者が軍人として第一歩を踏み出してからマヌス島での服役に至るまでの軍人生活を回顧したもの。占領国の現地住民や、敵国であった連合国側からも称えられた著者の人間的な温かさが感じられる自伝である。本書はその抄録となる。

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 きっかけは、ある書評の原稿だった。
 2016年1月17日、産経新聞の日曜版読書欄の人気企画「この本と出会った」で、東京大学名誉教授で比較文化史家の平川祐弘氏が『今村均回顧録 今村均著』(平凡社)を取り上げました。「昭和の陸軍大国日本の表裏」と見出しがつけられた書評記事は、その日の昼前には「【この本と出会った】軍人の本だからと毛嫌いしてはならない 昭和の陸軍大国日本の表裏を解き明かす、陸軍大将の自伝『今村均回顧録』」と題されて「産経ニュース」でネット配信されました。
 平川名誉教授は、今村均陸軍大将の自伝についてこう書き始めています。
「敗戦後、日本人は自国に自信が持てなくなった。とくに国を滅ぼした陸軍の将官は軽侮のまなざしで見られた。だがそんな時期に『この本と出会えてよかった』と深く感銘されたのが今村均陸軍大将の自伝である。内実に富み細部が語られていたからだけではない。このような日本人がいたことが有難かったのである。
 今村均(1886~1968年)は真に名将と呼ぶにふさわしい人で、ジャワでオランダ軍を降伏させ軍政をしいた後ラバウルに転じ、そこを半要塞化、現地自活の体制を確立、8月15日まで頑張り通した。そんな戦闘指揮も見事だが、戦後でも、牢獄(ろうごく)でも、立派に身を処した。戦犯として豪州側に訴追され巣鴨で禁錮10年の判決が出た。だが戦犯とされた部下は酷熱のマヌス島で強制労働に服している。今村は志願して赤道直下へ戻り、その島で服役、最後の一兵とともに帰国した。報復裁判は別形態における戦争の継続と考えて、将軍は部下と運命を共にわかとうとしたのである」
 平川名誉教授によって「今村は、獄中で、ちびた鉛筆で思い出を書きとめた」と紹介された今村均回顧録。記事中に「今村均大将の回顧録は、自由アジア社、芙蓉書房出版などから刊行されたがいずれも絶版。平凡社「日本人の自伝」シリーズ所収の『今村均回顧録 抄』が電子書籍(eBookJapan)で購入できる」と明記されていたこともあって、書評の反響はその日のうちに販売冊数の急増なって現れました――『日本人の自伝36 今村均「今村均回顧録 抄」』の配信が始まったのは2012年11月でしたが、それ以来書評が出る前日の1月16日までの購読者は数名でした。多くの本の中に埋もれ、読者の目に触れることもないままに迎えた1月17日(日)、突然、本が売れ始めました。夕方の5時頃には80冊を超え、夜11時過ぎには100人を超える読者がダウンロードしてくれました。
 翌月曜日になると平凡社にも読者からの問い合わせが殺到し、紙書籍はありませんから、イーブックジャパンで電子書籍を手に入れることができると案内してくれたそうです。在庫切れなしの電子書籍のメリットが生きた格好で、たちまち文芸ジャンルの売れ行きランキングのトップに躍り出たのですから驚きです。
 そして――平川名誉教授によって再発掘された本を求める読者の動きは、今も続いています。
 思いがけない形で話題の本となった『今村均回顧録』を初めて読んでみました。「意外に」といっては、明治19年(1886年)生まれの元陸軍大将の著者に対して失礼かもしれませんが、この半生記、若きエリート軍人たちの〝お茶目ないたずら〟の数々や将校と兵士の間の人情話も描かれていて思いのほか面白い。そしてそのお茶目ぶりも含め、旧陸軍の人事や教育問題へ言及しているところなどは今に通じる考察として、きちんと向かいあうべき内容といっても過言ではありません。
 まさに、「昭和の軍人の自伝だからといって毛嫌いしてはならぬ」平川名誉教授の指摘通り、今の時代に改めて読んでほしい一冊です――。
 受験シーズンを迎えて、大学から中学に至るまで、教育(受験システム)改革論が繰り返し語られています。今村均回顧録で主張されている「教えざる教育」論は、現代の教育改革論議に一石を投じるものといえないでしょうか。引用します。

〈いつの頃のことだったか、名前もはっきり記憶しないが、アメリカ教育界を視察して帰ったある工学博士がJ・O・A・Kの放送により「教えざる教育」という題で、
「アメリカの高等学校以上では、時々生徒の能力を考察し、まだ教える必要がある者と、教えるとかえって生徒の発達を抑えることになる者とを区分し、前者には日本同様、学校に通学させ教師の講義を聴かせるが、後者には、特定の日だけ出校させ、研究課題と、それに対する答解提出の期日とを指定し、その間は通学の必要はなく、自宅、図書館、博物館、各種機械工場、関係地方などにではいりし、自分で答解をでっちあげ、それを期日に学校に出させる。教師はこれを閲読して、正否、十分不十分の点を指摘し、もう一度同じことを研究させるか、又はもう一段進んだ他の議題を与える。
 何故にさようなやりかたをするかと云えば、初めから教えてしまえば、生徒をして、教師の持っている知識以下のものを得させることになってしまう。それを生徒自身に研究させると、頭脳のはたらきを良くするばかりでなく、問題ごとに、教師の得ていないものまでを、考え出させることにもなる。
 日本のように、たれかれの別なく同じに教える式の教育をやることは、一部分の生徒は、追いつけないで苦しみ、一部分の生徒には物足らぬものになり、その発達を抑える。欧州にくらべ、後進国だったアメリカの学界、とくに科学部門が、ぐっと欧州のものよりずぬけて発達したのは、主としてこの教えざる教育によったものだ。日本の、工学、理学方面は、至急教育のやりかたを改善するのでなければ、いつまでも他国に追いつくことは出来ないだろう」
 かような趣旨のことを説いた。私は有益にこれを聞き、その趣旨を肯定した。
 が、考えてみると我が陸大教育は――ドイツの例にならったものかと思われるが――ずっと古くから、右の教えざる教育をやっていたものだ。〉

 今村元大将は「教えざる教育」の要を説き、じっさいに陸軍大学においてそれが行われており、大きな効果をあげていたとしながらも、教官の選任が適当を欠いたことなど、二、三の大きな過誤が存在しており、これが全陸軍に弊害をかもし出させ、お国のために、取りかえしのつかない災害を招くことになった原因の一つとなった――と冷静に振りかえっています。
 昭和前期のエリート軍人たちがどこで道を誤り、それが日本という国に何をもたらしたのか。人間の機微をよく知る今村均元大将が、旧陸軍の内実を平易な言葉で綴った回顧録。戦争の世紀に過酷な人生を歩んだ先達が遺した貴重なドキュメントが、碩学による書評をきっかけに電子書籍を読む若い人々の注目を集めているというわけです。
 平凡社の「日本人の自伝」シリーズ全69巻(別巻を含む)のうち、著作者の許諾がとれていない6冊を除く63巻が電子化されたのは2012年のことです。平凡社とイーブックジャパンの共同企画として、紙書籍をスキャンして画像形式の電子書籍が制作され、2012年11月より順次配信が始まりました。現在もこのシリーズが配信されているのは、イーブックジャパンだけです。今回取り上げた『今村均回顧録 抄』のほかにも、福沢諭吉『福翁自伝』渋沢栄一『雨夜譚』田中正造 『田中正造昔話』鈴木貫太郎 『鈴木貫太郎自伝』『終戦の表情』柳田国男 『故郷七十年』勝小吉 『夢酔独言』などなど、江戸後期、明治維新、大正・昭和に至る日本の軌跡をたどる名著がそろっています。(2016/2/5)
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