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初夜

「この娘は、一生男を知らないまま、子宮を切り取られるのか」婚期をのがした娘の手術前夜、娘の傍らで眠る父の悲哀と甘やかな妄想を描く表題作ほか、バーで独り飲む女にバーテンダーが語った奇妙な体験「眠れる美女」、可愛かった妹の人生が低迷してゆくのを見守る兄の心理「いもうと」、初めての不倫にふみだす妻のためらい「春の海へ」、故郷の町に戻ってきた三人の女たちに渦巻くねたみと憎しみ「帰郷」など、直木賞作家の実力を堪能できる11篇の恋愛官能小説集。

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老嬢――「未婚のまま婚期を過ぎた女。年とった未婚の女。オールドミス。老処女」と辞書(日本国語大辞典)にあります。林真理子『初夜』は、そんな老嬢の人生を描く11の物語からなる短篇集。東京から急行で2時間ほどの地方都市に暮らす老嬢の、鬱屈した生活、心の奥底に秘めた思いを見つめる林真理子の視線は、表向きの笑顔に隠されたオンナの本音を射貫いてみせます。「女は恐い」という言い方がありますが、独身アラフォーのどこにでもあるような日常をさりげなく描きながら、密やかにしまい込まれていた本音が出口を求めて蠢くような、彼女たちの物語を読み進めていくうちに、この「女は恐い」という言葉がゾッとする思いとともに浮かんできました。なかでも9番目に収録されている『帰郷』が出色です。東京での暮らしに区切りをつけて生まれ故郷の町に帰ってきた幼なじみの二人の葛藤を通して、オトコには見えてこないオンナという生きものの奥に潜む悪意を描き出して不気味です。〈私は子どもの頃から松子が大嫌いであった。彼女も私と同じぐらい、いや、それ以上に私のことを嫌っていた。その原因に名前のことがあると誰かが言ったものだ。彼女の松子という名前は、当時の田舎でも珍しいほど古めかしいものであった。松子は私の“絵里果”という名前に激しく嫉妬したらしい。他の友達のようにエリカちゃんとは呼ばず、エッちゃんとわざと平凡に発音した。そんな私たちがどうして一緒に遊んでいたかというと、そのあたりで同い齢の女の子は私たちだけだったからだ〉二人しかいない同年齢の友だちだが、自分の古めかしい名前に比べていまふうの名前が羨ましいを超えて妬ましくてしょうがない、だからみんなと同じように「エリカちゃん」とは呼ばず、平凡に「エッちゃん」と呼んだというのです。子どものときから、底にある種の感情を秘めながら表向きは友だちとしてフツウに遊ぶ二人に、忘れられない事件が起きます。暑い夏の日、遊びに来た絵里果を松子は川原に行こうと誘います。真新しい大人もののサンダルを借りて履いた絵里果が川に入っていった時のことです。〈私はスカートの裾をさらにたくし上げ、そろそろと真ん中に向かって進んでいった。大人もののサンダルは、私の足に合わず、非常に歩きづらい。一歩一歩踏みしめて歩く。水の冷たさが、私たちの遊んでいた小さな流れとはまるで違う。底の石も意地悪く尖(とが)っていると思った瞬間、私は流れに足を取られた。私はとっさに近くの岩に手をついた。水が太ももから入り、下着まですっかり濡らした。気がつくと左足の裏にしっかりとした石の感触があった。目の前を赤と白のサンダルがぷかぷかと浮いている。手を伸ばしたが届かなかった。サンダルは急にスピードを早め、水に抱かれて進んでいく。夏の光の中、それはまるで悪夢のようであった。映画の一場面を見ているようで、とても現実のこととは思えない。大人のものを勝手に借り、それを紛失してしまったということに、ようやく私は気づいたからである〉松子の母はサンダルのことを聞くなりいきなり娘をぶった。絵里果の目の前で、松子の髪をつかんで思いっきり打擲(ちょうちゃく)した。許してと泣き叫ぶ松子。絵里果も体を震わせて泣いた。おばさん、許してあげて。悪かったのは私なの。ぶつなら私をぶって・・・・・・。〈いま思い出してみると奇妙な出来ごとであった、新品といっても、たかが普段履きのサンダルである。後に私の母親が新しいものを買ってわびに行ったが、近くの下駄屋で似ているようなものをいくらもしない値段で買えたという。松子の母親はどうして私の目の前で娘をあれほどまでに折檻したのだろうか。そして激しく泣き叫んだ松子。あれは私をいたぶるために、母子で仕組んだ芝居だったのだろうかとふと思うことがある〉中学、高校と進み、離れていった二人が、それぞれの事情をかかえて故郷の町に戻ってきます。そして松子の末娘・理沙が、絵里果が開いた英語塾に入室して、二人の思いが再び交錯します。松子はたくさんのものをもって町に帰ってきたという絵里果の嫉妬心。絵里果の前に、保育園の黄色い帽子を被った理沙の姿。「先生」と近づいてくる理沙。〈「理沙ちゃん、川原に行こうか」こっくりと頷いた。(中略)川原の水は冷たい。濃くなった闇の中でいっそう冷たく感じる。理沙は私に寄り添って傍らにいる。私が水の中に手を入れると真似て小さな手を入れる。「もっと真ん中まで行ってみようか」〉恐るべし、女の制御できない悪意――。(2012/12/28)
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