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もう、きみには頼まない 石坂泰三の世界

無事是貴人――何事も無いのが最上の人生。この言葉を信条としながらも、頼まれたらどんな難事も引き受け取り組んだ実業家・石坂泰三。第一生命を日本有数の保険会社にし、労働争議で危機を迎えた戦後の東芝を立て直し、経団連会長として日本経済の復興を任され、国家事業となった大阪万国博覧会を成功に導く。まるで流れのままに身をゆだねるような人生を歩みながら、一方で、どんな権力者にもおもねらず、あくまで自由競争を旨としたその経営哲学を、城山三郎が描く。

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書名は、経団連会館建設を計画していた石坂泰三が幾度も足を運んだにもかかわらず、煮えきらない態度をとり続ける大蔵大臣に対し業を煮やした石坂が「もう、きみなんかに頼まない」と言い放ったエピソードに由来する。石坂の子どもたちによれば「父は気が短く、時々癇癪を起こしていた」とのことで、石坂の「短気」の対象になった人物は枚挙に暇がない。マッカーサー、田中角栄、日銀総裁の山際正道・・・・・。もっとも、この顔ぶれからしても単なる「短気」からではない。城山三郎は、気骨の人というだけでなく、純愛物語といってよいほどの妻想いや、無所属の時間を楽しむ余裕、老年に至るまで複々線的な生き方を貫いたことなどなどを人間的な魅力としてあげている。八十八で世を去った石坂の最晩年、土光利夫が、盛田昭夫が訪ねてきたときの様子を描いたうえで、武道館で行われた葬儀で物語が終わる。ラストシーンが石坂の人生を、人を見事に描いて秀逸だ。少し長くなるが引用しておく。〈石坂の功績に対し大勲位を贈るべきだとの強い要請がくり返された結果、三木首相も同意した。だが、事務当局である賞勲局長が「民間人にその前例なし」として猛反対し、つぶしてしまった。気骨の人石坂に対し、官は然るべく報いた、ということなのか。もっとも石坂にとっては、大勲位など問題ではない。武道館を埋めた人々と少年たちの敬礼に見送られ、二十年待たせた雪子(注・妻)のもとへと、旅だって行った。〉(2009/11/27)
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